~タケノコの季節~
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院長コラム
こんにちは。8月の猛暑もようやく落ち着き、季節は少しずつ秋へと移ろいつつあります。そんな時期に本日のタイトルは――春の食材「タケノコ」?と不思議に思われた方もいるかもしれません。
実は、炎症性腸疾患(IBD:潰瘍性大腸炎、クローン病、腸管ベーチェット病)の治療薬は、この10年でまさにタケノコのように次々と登場してきました。今回はそのお話です。

かつて10〜20年前、IBDの治療薬はほんの数種類しかなく副作用の問題もあり、炎症が強い患者さんは「入院」で治療せざるを得ませんでした。しかし近年では状況が一変し、入院を必要とする方は大幅に減ってほとんどの患者様が入院せず治療されています。その大きな理由は、新しい薬の登場によって「外来通院」で多くの患者さんが病気による症状のない状態「寛解(かんかい)」を得られるようになったからです。
特に大きな役割を果たしているのが 生物学的製剤 と JAK阻害薬 です。
☑生物学的製剤 は炎症の原因となる免疫反応を直接ブロックする注射薬です。代表的なものに 抗TNFα抗体製剤(インフリキシマブ、アダリムマブ、ゴリムマブ) があり、炎症の強いスイッチを切る働きをします。さらにこの10年で、抗IL-12/23抗体製剤(ウステキヌマブ、グセルクマブ、リサンキズマブ、ミリキズマブ) や 抗α4β7インテグリン抗体製剤(ベドリズマブ) といった新しい注射薬も登場し、異なる仕組みで炎症を抑えることができるようになりました。
☑一方で、飲み薬 も新しく使えるようになってきました。たとえば、細胞内の炎症シグナルを止める JAK阻害薬(ウパダチニブ、フィルゴチニブ、トファシチニブ)、さらにリンパの流れを調整して炎症を抑える S1P調節薬(オザニモド、エトラシモド) です。加えて、ブデゾニド や カロテグラストメチル などの薬も使えるようになり、注射だけでなく内服薬の選択肢が広がったことで、治療はより柔軟になりました。

このように治療薬が次々と生まれてきたことで、患者さん一人ひとりの症状や生活スタイルに合わせて治療を選べる時代になっています。かつての「治療の選択肢が限られていた時代」から、「タケノコのように新薬が次々と出てくる時代」へ――。IBD治療は今、大きな転換点を迎えているのです。
もっとも、薬が増える一方で「新しい悩み」も出てきました。次回のコラムでは、その課題と私たちがどのように対応していくのかについてもお話ししたいと思います。どうぞご期待ください。
医療法人英知会「原田内科胃腸科医院」
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